【シニア向け】空き家で始める地域の「思い出地図」づくり:昔を語り合い、地域とつながるヒント
はじめに:失われゆく地域の記憶、どう残しますか?
年を重ねるにつれて、故郷や長く暮らした地域の景色が少しずつ変わっていくのを感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。昔あったお店、賑わっていた場所、友達と遊んだ秘密の場所など、心の中に大切な思い出がたくさん詰まっていることと思います。
しかし、そうした地域の記憶や暮らしの知恵は、語り継がれる機会が減り、だんだんと薄れていってしまうかもしれません。また、地域に新しく移り住んで来られた方にとっては、昔の地域の様子を知る機会も少ないのが現状です。
この記事では、空き家を使い、地域の思い出を皆で語り合い、「思い出の地図」として形に残す活動についてご紹介します。小規模で無理なく始められ、地域の方々との新しいつながりや、自分自身の生きがいを見つけるきっかけにもなりますので、ぜひ参考にしてみてください。
「思い出の地図づくり」とはどんな活動でしょうか?
「思い出の地図づくり」とは、参加者それぞれの記憶をたどりながら、昔の地域の様子を白地図や航空写真などに書き込んでいく活動です。
単に場所を示すだけでなく、その場所での個人的なエピソードや当時の暮らしぶり、地域の習慣などを書き添えることで、単なる地理情報ではない、温かい「記憶の地図」ができあがります。
例えば、
- 昔の商店街の賑わい
- よく遊んだ原っぱや秘密基地
- お祭りの思い出
- 近所のおじさん、おばさんのこと
- 道の草花や虫のこと
- 災害があった時のこと
など、人によって様々な思い出があります。これらの思い出を参加者同士で共有し、地図の上に重ねていくことで、その地域ならではの豊かな物語が浮かび上がってきます。
なぜ空き家が「思い出の地図づくり」の拠点にぴったりなのでしょうか?
この活動に空き家を活用することには、いくつかの良い点があります。
- 集まりやすい場所になる: 自宅に人を招くのが大変だと感じる場合でも、空き家を活動の場とすることで、気兼ねなく参加者を迎え入れられます。定期的に集まる場所があることは、活動を継続する上で大切です。
- 落ち着いた雰囲気で話せる: 昔ながらの空き家であれば、どこか懐かしい、ゆったりとした時間が流れています。そのような空間は、参加者がリラックスして思い出を語り合うのに適しています。
- 地域に開かれた場所に: 空き家を活動拠点にすることで、「あの空き家で何かやっているらしい」と地域の方に知ってもらうきっかけになります。活動に興味を持った方が、気軽に立ち寄れるようになるかもしれません。
- 道具や資料を置いておける: 地図、ペン、資料、昔の写真などを置いておく場所として活用できます。
もちろん、大きな改修は必要ありません。最低限の清掃や、机・椅子を用意するだけでも十分に始めることができます。
「思い出の地図づくり」活動の具体的な進め方
では、実際にどのように活動を進めていくのか、具体的なステップを見ていきましょう。
1. 小さく始めてみる
いきなり大勢で始める必要はありません。まずは、親しいご近所さんや友人、地域の歴史に興味のある方など、数名に声をかけてみることから始めましょう。数人で集まって、お茶を飲みながら思い出を語り合うことから始めても良いのです。
2. 地図と道具を用意する
活動の「地図」として使うものを用意します。
- 市販の地図や白地図: 現在の地図をベースにする場合。大きなものが話し合いやすいでしょう。
- 昔の航空写真や古地図: 図書館や役場で手に入れられる場合があります。昔の景色を思い出す助けになります。
- 手書きの地図: 参加者が自由に描くのも楽しい方法です。
その他、ペン(色分けできると分かりやすいです)、付箋(場所に貼ってエピソードを書き込む)、マスキングテープ、資料(昔の写真、地域の記録など)を用意します。
3. 空き家を準備する
活動に使う空き家の場所を決めます。所有者や管理者の許可を得て、安全に使える状態か確認します。必要であれば、簡単に掃除をし、参加者が座って話せるように机と椅子を用意します。特別な設備は必要ありません。
4. 参加者を集める・声をかける
活動に関心を持ってくれそうな地域の方に声をかけます。
- 近所への声かけ
- 自治会の回覧板や掲示板
- 地域の交流スペースや公民館での呼びかけ
など、ターゲット層の目に留まりやすい方法を検討しましょう。最初は「昔のお話を聞かせてください」「一緒に懐かしい場所を振り返りませんか」といった誘い方が、気軽に参加してもらいやすいかもしれません。
5. 集まって「思い出」を話し合う
いよいよ活動開始です。
- リラックスできる雰囲気づくり: お茶やお菓子を用意するなど、和やかな雰囲気で始めましょう。
- テーマを決める(任意): 最初は自由に話しても良いですが、慣れてきたら「昔の遊び場」「通学路」「季節の行事」など、テーマを決めると話が弾みやすくなります。
- 地図に書き込む: 話を聞きながら、思い出の場所を地図の上に示してもらったり、付箋にエピソードを書いて貼ってもらったりします。昔の写真を持ち寄ってもらい、地図上の場所と照らし合わせるのも良いでしょう。
- 聞き役に徹する: 一人が話しすぎるのではなく、皆が順番に話せるように配慮します。共感したり、質問したりしながら、会話を深めていきます。
活動の記録として、話し合った内容をメモしたり、できあがった地図の写真を撮っておいたりするのも良いでしょう。
活動を通じて得られること
この「思い出の地図づくり」活動は、参加者にとって様々な恵みをもたらします。
- 地域への愛着が深まる: 自分の記憶を通じて地域の歴史や変化を感じることで、住んでいる場所への愛着がより一層深まります。
- 参加者同士の交流が生まれる: 共通の思い出を通じて、初対面の方でも自然と会話が弾みます。地域の新しいつながりや仲間が生まれるきっかけになります。
- 地域の記憶を次世代に: 地図やエピソードは、地域の貴重な記録となります。将来、若い世代や移住者が地域の歴史を知る手がかりになるかもしれません。
- 自分自身の人生を振り返る機会に: 昔の出来事を語ることは、自分自身の人生を振り返り、改めて意味を感じる大切な時間となります。
- 空き家が地域の交流拠点に: 使われていなかった空き家が、人々の笑顔が集まる温かい場所に生まれ変わります。
始める上で知っておきたいこと・注意点
この活動を始めるにあたって、いくつか心に留めておきたいことがあります。
- 無理なく、楽しみながら: あまり難しく考えず、「みんなでおしゃべりする場」くらいの気持ちで、気楽に始めることが大切です。義務感にならないよう、楽しい雰囲気づくりを心がけましょう。
- 個人的な記憶の尊重: 思い出は人それぞれ異なります。記憶違いがある場合もありますが、間違いを指摘するのではなく、それぞれの記憶を大切に受け止め、語り合うことを楽しみましょう。
- プライバシーへの配慮: 個人の家にまつわる話など、プライベートな内容が出てくる場合もあります。外部に無断で公開する可能性がある場合は、参加者全員の同意を必ず得るようにしましょう。
- 記録の取り扱い: 地図や記録をどのように扱うか、参加者と話し合って決めると良いでしょう。地域の公民館に寄贈する、冊子にまとめるなど、様々な方法が考えられます。
- 費用について: 基本的には参加費などを取らず、ボランティアベースで行うことが多いです。空き家の利用にかかる費用(光熱費など)は、事前に確認しておきましょう。
困ったときはどこに相談すれば良いでしょうか?
「一人で始めるのは少し不安」「空き家を借りるにはどうしたら良いの?」など、困ったことや分からないことが出てくるかもしれません。そんな時は、次のようなところに相談してみましょう。
- お住まいの市町村役場: 空き家バンク制度や、地域活動に関する支援制度があるか聞いてみましょう。担当部署(企画課、移住定住促進課、高齢者福祉課など)に相談してみるのが良いでしょう。
- 地域の社会福祉協議会やNPO: 地域での様々な活動を支援している場合があります。情報提供や、活動仲間を紹介してもらえる可能性もあります。
- 自治会や町内会: 地域の事情に詳しい方や、活動に協力してくれる方が見つかるかもしれません。まずは役員の方に相談してみるのも良い方法です。
- 地域の公民館や交流センター: 地域活動に関する情報が集まっている場合があります。場所を借りる相談ができることもあります。
まずは身近な方、信頼できる方に話を聞いてもらうことから始めてみるのも良いでしょう。
おわりに
空き家を使った「思い出の地図づくり」は、特別な技術や知識がなくても、誰でも気軽に始められる活動です。懐かしい記憶をたどり、語り合う時間は、きっとあなたの心を満たし、地域との新しいつながりを育んでくれるはずです。
使われていない空き家の一室から、地域の温かい交流が生まれる。そんな素敵な暮らしを、あなたも始めてみませんか。まずは、ご近所さんにお茶を飲みながら「昔、この辺りはどうだった?」と話しかけてみることから始めてみてはいかがでしょうか。