空き家で始める地域のデジタル・暮らし相談所:シニアの困りごとを支える小さな活動
デジタルや暮らしの「わからない」が増えていませんか?
近年、社会全体でデジタル化が進み、様々な手続きがオンラインで行われるようになりました。スマートフォンやパソコンの操作、キャッシュレス決済、あるいは役所への届出や申請など、新しい仕組みや複雑な手続きに戸惑う方もいらっしゃるかもしれません。
特に地方では、ご家族が遠方に住んでいたり、近くに気軽に聞ける人がいなかったりして、「ちょっと聞きたいだけなのに」という困りごとが解消されにくい状況があるかもしれません。
空き家が地域の「助け合いの場」になる
こうした地域の「困った」を解消する場として、使われなくなった空き家を活用するアイデアがあります。それが、「地域のデジタル・暮らし相談所」です。
これは、大きなビジネスとして収益を上げるというよりは、地域に根差した小さな活動として、住民同士が支え合い、お互いの知識や経験を分かち合うための居場所を作るイメージです。
空き家を、地域の方が気軽に立ち寄って、デジタル機器の基本的な操作方法を学んだり、複雑な手続きについて一緒に考えたり、あるいは単に暮らしの中でのちょっとした困りごとを相談し合ったりできるような、温かい交流の場として再生させるのです。
「デジタル・暮らし相談所」ってどんな場所?
この相談所は、専門家による高度なサービスを提供する場所ではありません。例えば、次のような活動が考えられます。
- スマートフォンの基本操作を教える: 電話のかけ方、メールの送り方、カメラの使い方など。
- オンラインサービスの利用をサポート: ネットスーパーの注文補助、動画視聴アプリの使い方など。
- 役所手続きの疑問点を一緒に調べる: 申請書の書き方、必要な書類の確認方法など。(専門的な内容には立ち入らず、どこに聞けば良いかを示す)
- キャッシュレス決済の練習: 少額の支払いを一緒に体験してみる。
- 暮らしの中の困りごと相談: 近所の病院やお店の情報、不用品の処分方法など、地域内で解決できる身近な話題。
- 相談者同士の交流: お茶を飲みながらおしゃべりする場として。
改修した空き家の一室に、テーブルと椅子、簡単なパソコンやタブレット、Wi-Fi環境などを整え、予約制にする、週に数時間だけ開けるなど、運営者の無理のない範囲で始めることができます。カフェのような落ち着ける雰囲気にするのも良いでしょう。
なぜ空き家を活用するのが良いのでしょう?
空き家を「デジタル・暮らし相談所」として活用することには、いくつかの利点があります。
- 初期費用を抑えられる: 新しい建物を建てるよりも、既存の空き家を活用する方が、購入費用や賃借料、改修費用を抑えられる可能性があります。
- 地域に根差した場所になる: 昔から地域にある建物を使うことで、住民に馴染みやすく、親しみやすい場所になります。
- 改修を自分たちのペースで: 大規模な改修が必要ない場合や、DIYで対応できる範囲であれば、コストを抑えつつ、自分たちの手で居心地の良い空間を作り上げられます。
- 地域の活性化に貢献: 使われていない空き家を有効活用することは、地域の景観維持や活性化にもつながります。
活動を始めるためのヒント
具体的にどのように進めれば良いか、いくつかのステップで考えてみましょう。
ステップ1:地域のニーズを探る
まずは、あなたの住む地域でどのような困りごとが多いのか、情報収集をしてみましょう。
- 近所の方と話してみる
- 地域の集まりや交流会に参加してみる
- 自治体の高齢福祉課や社会福祉協議会などに相談してみる
実際にどのようなサポートが必要とされているかを知ることで、活動内容を具体的にイメージしやすくなります。
ステップ2:空き家を探して準備する
相談所として活用できそうな空き家を探します。
- 自治体の空き家バンクを利用する
- 地域の不動産業者に相談する
- 地域住民に声をかけてみる
空き家が見つかったら、相談者が安心して過ごせるように、簡単な改修や整備を検討します。例えば、段差をなくす、手すりをつける、照明を明るくするなど、安全面に配慮した小さな工夫が大切です。これらの簡単な改修であれば、DIYで対応できることもあります。
必要な備品として、テーブル、椅子、飲み物を提供する簡易的な設備、インターネットに接続できる環境、デジタル機器(スマートフォンやタブレットなど)の充電スペースなどがあると良いでしょう。
ステップ3:運営方法を考える
どのような体制で運営するかを決めます。
- 一人で始めるか、仲間と協力するか: 一人では大変でも、地域のボランティア団体やNPO、友人などと一緒に活動することで、負担を減らし、活動の幅も広がります。
- 開所日時や頻度: 毎日開けるのが難しければ、週に1回、午後の数時間だけなど、無理なく続けられるペースで始めましょう。
- 利用料: 無料にするか、お茶代程度の少額を設定するか検討します。
- 相談内容の範囲: 自分が対応できる範囲を明確にし、専門的な内容の場合は、適切な相談窓口(役所、専門家など)を紹介できるように準備しておきます。
活動を続けるためのポイントと注意点
- 無理は禁物: 体力や時間に合わせて、できる範囲で活動することが大切です。頑張りすぎると息切れしてしまいます。
- 専門的な相談は避ける: 弁護士や税理士、医師など、資格が必要な専門的な相談には対応できません。あくまで「身近な困りごとを聞き、解決の糸口を一緒に探す」というスタンスを明確にしましょう。
- 地域との連携: 自治体の担当部署や社会福祉協議会、地域の民生委員などと日頃から連携を取っておくと、より幅広い情報提供ができたり、いざというときに相談したりできます。
- 情報の更新: デジタルや行政のサービスは日々変化します。最新の情報を得る努力も必要です。
- 費用について: 大規模な収益を目指す活動ではないため、運営にかかる費用(光熱費、通信費、消耗品費など)をどう賄うかを考えておく必要があります。小規模な活動であれば、自己資金、利用料、地域の助成金や補助金などが考えられます。
費用や支援について
空き家を相談所として活用する場合にかかる主な費用は、物件取得費(購入または賃借)、改修費、備品購入費、そして日々の運営費です。
小規模に始めるのであれば、大きな費用はかからない場合もあります。特に改修については、自治体によっては空き家改修に関する補助金制度を設けている場合がありますので、お住まいの自治体に相談してみることをおすすめします。
また、地域での居場所づくりや高齢者支援の活動に対して、社会福祉協議会や地域のNPOなどが助成を行っているケースもあります。
まずは、お住まいの市区町村の役所の福祉課や空き家担当窓口、社会福祉協議会などに相談に行ってみましょう。活動のアイデアを話してみることで、活用できる制度や地域の協力者、相談先が見つかるかもしれません。
地域とのつながりを深める活動へ
「デジタル・暮らし相談所」は、単に困りごとを解決するだけでなく、相談に来た人同士が顔見知りになり、交流が生まれる場にもなります。ここでの出会いがきっかけで、新たな地域の活動につながる可能性も秘めています。
例えば、相談者の中から「私も誰かの役に立ちたい」と運営を手伝ってくれる人が現れたり、「ここで知り合った人たちと趣味の集まりを始めたい」という声が上がったりすることも考えられます。
空き家を拠点に、地域の「わからない」を解消し、人のつながりを育む。それは、地域貢献であると同時に、活動するご自身の新しい生きがいにもつながる、とても価値のある取り組みと言えるでしょう。
まずは、地域の窓口に相談してみませんか?
「空き家を活用して地域のために何かしたい」「リタイア後の時間を人のために使いたい」というお気持ちがあるなら、ぜひ一度、お住まいの地域の役場や社会福祉協議会に相談に行ってみてください。あなたのアイデアに耳を傾け、実現のためのサポートをしてくれる担当者がきっと見つかるはずです。
大きなことから始める必要はありません。まずは小さな一歩から、地域の空き家が温かい交流と助け合いの場として生まれ変わる可能性を探ってみましょう。