空き家で得意なことを教える:地域とつながる小さな学びの場づくり
リタイア後の時間、どのように過ごされていますか。
これまでの人生で培った経験や知識、趣味で磨いてきた技術など、「得意なこと」を誰かに伝えてみたい、地域の人たちと交流を深めたい、そうお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、いざ何かを始めようと思っても、どこで、どのように実現すれば良いのか、具体的なイメージが湧きにくいものです。大勢の前に立つのは気が引ける、あまりお金をかけたくない、といったご心配もあるかもしれません。
この記事では、地方にある「空き家」を活用して、ご自身の「得意なこと」を地域の方々に教える、そんな小さな学びの場をつくるアイデアについてご紹介します。無理なく、ご自身のペースで始められる方法や、準備のヒント、安心して取り組むための情報をお伝えします。
空き家で小さな学びの場を持つ魅力とは
なぜ、空き家を活用して学びの場をつくることがおすすめなのでしょうか。いくつか理由が考えられます。
無理なく始めやすいコスト
新しく場所を借りたり建てたりするのに比べ、空き家を借りる、または購入する場合は、比較的費用を抑えられる可能性があります。特に地方では、手頃な価格の空き家が多く見られます。大規模な改修(かいしゅう)が必要ない物件を選べば、初期費用をさらに抑えることも可能です。
地域に根差した活動ができる
空き家はもともと、その地域にあった建物です。そこを活動の場とすることで、自然と地域の人たちとの交流が生まれやすくなります。地域のニーズに合わせた内容にすれば、より喜ばれ、活動が根付いていくでしょう。
ご自身のペースで進められる
大きな組織や既存の場所に間借りするのではなく、ご自身の管理する空間であれば、レッスンの頻度や時間、教える内容などを、ご自身の体力やライフスタイルに合わせて自由に決められます。
どんな「得意なこと」が学びの場になる?アイデア例
「得意なこと」といっても、特別なスキルが必要なわけではありません。日常で自然とやっていることや、好きなこと、人から「上手だね」と言われるようなこと、そういったものが学びの場につながる可能性を秘めています。
たとえば、次のようなアイデアが考えられます。
- 趣味・教養を教える:
- 手芸(編み物、パッチワーク、裁縫など)
- 書道、絵画、俳句や短歌
- 料理(家庭料理、郷土料理、お菓子作りなど)
- 写真、カメラの使い方
- 簡単なパソコンやスマートフォンの使い方
- 健康体操、ヨガ、ストレッチ
- 語学(外国語や方言)
- 暮らしの知恵・技術を教える:
- 家庭菜園、簡単な園芸
- 梅干しや味噌などの保存食作り
- 家具の簡単な補修(ほしゅう)やDIY
- 着物の着付けや和裁
- 地域ならではの文化・技術を伝える:
- 地域の歴史や民話の語り
- 地域の伝統工芸や農作業の初歩
大切なのは、「教える」という形にこだわらず、一緒に楽しむ「交流の場」というイメージで始めることです。
空き家で学びの場を始めるためのステップ
漠然としたアイデアを、形にするためには、いくつかのステップがあります。一つずつ、焦らずに進めていくことが大切です。
- 「何を教えたいか」を具体的に考える:
- ご自身の得意なことは何か、書き出してみましょう。
- どんな人に来てほしいか、イメージしてみましょう。
- 地域の人はどんなことに興味がありそうか、周りの人に聞いてみるのも良いでしょう。
- 場所となる空き家を探す:
- 教えたい内容に合った広さや間取りの空き家を探します。
- 人が集まりやすい場所か、駐車場はあるかなども確認ポイントです。
- 後ほどご紹介する相談窓口を活用しましょう。
- 空き家の下見と契約:
- 実際に物件を見て、必要な改修の程度や、活動場所として使えるかを確認します。
- 契約内容をしっかりと確認し、疑問点は不動産会社や大家さんに質問しましょう。
- 活動場所として整える(簡単な改修など):
- 大きな工事は必要ない場合が多いです。清掃(せいそう)や壁の塗り直し、照明器具の交換など、自分たちでできる範囲の改修から始めましょう。
- もし専門的な工事が必要なら、複数の業者から見積もりを取るなど、慎重に進めます。
- 必要なものを準備する:
- 教える内容に応じた道具や材料、テーブルや椅子などを揃(そろ)えます。
- 最初は高価なものを揃えず、家にあるものや中古品を活用するなど工夫しましょう。
- 参加者を募集する:
- 地域の人に知ってもらうことが大切です。回覧板や地域の掲示板、公民館へのチラシ設置、近所の方への声かけなど、身近な方法から試してみましょう。
- 最初は少人数から始めるのがおすすめです。
- 活動を始める:
- 無理のない頻度で、楽しみながら活動を始めましょう。参加者の方との会話も大切に、交流を深めてください。
始める前に知っておきたいこと・確認したいこと
活動を円滑(えんかつ)に進めるために、いくつか確認しておきたい点があります。
資金について
どれくらいの費用がかかるのか、事前に計画を立てておくと安心です。 考えられる費用としては、
- 初期費用: 空き家の契約にかかる費用(敷金・礼金など)、改修費用、道具や備品の購入費など
- 運営費用: 家賃(借りる場合)、光熱費、水道費、材料費、広報費など
です。
大規模な改修や高価な設備が必要ない活動を選べば、初期費用を抑えることができます。地方自治体によっては、空き家の改修費用に対する補助金や、地域活性化につながる活動への助成金(じょせいきん)制度を設けている場合があります。ご自身の住む、または活動したい地域の役場などに問い合わせてみましょう。
空き家の改修について
空き家によっては、多少の修繕(しゅうぜん)が必要な場合があります。ご自身でDIY(ディーアイワイ)に挑戦するのも楽しいですが、水回りや電気配線など、専門的な知識や技術が必要な箇所は、無理せずプロの業者に依頼することが安全面からも重要です。
賃貸(ちんたい)物件の場合は、改修ができるかどうか、大家さんに必ず許可を得る必要があります。契約時にしっかりと確認しておきましょう。
地域との関係づくり
空き家を活用した活動は、地域の方々の理解と協力があるとよりスムーズに進みます。活動を始める前に、近隣の方々へご挨拶(あいさつ)に伺い、どんな活動をしたいのか、丁寧にご説明すると良いでしょう。地域の清掃活動やお祭りなどにも参加し、日頃から交流を深めておくことも大切です。
どこに相談すれば良いか
一人で抱え込まず、困ったときや知りたいことがあるときは、積極的に相談しましょう。
- 地方自治体の窓口: 空き家バンクに関する部署、移住相談窓口、地域活性化に関する部署などが情報を提供している場合があります。空き家改修の補助金や活動への助成金についても尋(たず)ねてみましょう。
- 地域の社会福祉協議会やNPO法人: 地域に根差した活動を支援している団体が、アドバイスをくれたり、活動の場を紹介してくれたりすることもあります。
- 商工会や観光協会: ビジネス寄りの相談になりますが、地域のニーズや集客方法についてヒントが得られるかもしれません。
- 地域のボランティアセンターや公民館: 活動場所の提供や、参加者募集の協力が得られる場合があります。
不安なことや分からないことは、まずはこれらの窓口に問い合わせてみることから始めてみましょう。
小さく始めて、楽しむことが成功のヒント
空き家を使った学びの場づくりは、最初から立派な施設やたくさんの参加者を目指す必要はありません。まずは、家族や友人、近所の方など、身近な人に声をかけることから始めてみるのも良いでしょう。
参加費をいただくのがためらわれるなら、最初は材料費だけいただく形にするなど、負担にならない方法を考えましょう。回数を重ねるごとに、参加者からの意見を聞いたり、ご自身の経験を積んだりしながら、少しずつ形を変えていくことができます。
何よりも大切なのは、ご自身がその活動を楽しむことです。楽しんでいる姿は周りの人にも伝わり、それが地域との良いつながりをつくり、活動を続ける力になります。
まとめ
地方の空き家を活用して、ご自身の得意なことを教える小さな学びの場をつくることは、リタイア後の生きがいを見つけ、地域社会と深く関わる素晴らしい機会となります。
資金や改修、参加者集めなど、不安に思うこともあるかもしれませんが、一人で抱え込まず、自治体の窓口や地域の支援団体に相談しながら、一歩ずつ進めていくことが可能です。
完璧を目指さず、まずは小さく始めてみましょう。ご自身の経験や得意なことが、きっと誰かの学びや喜びに繋がり、それがご自身の暮らしをより豊かなものにしてくれるはずです。このアイデアが、あなたの新しい一歩を応援するものとなれば幸いです。